ねじを巻きすぎて壊れた オルゴールの向こうで
テレビが お腹をすかせた子供たちを映し出している
僕にはそんなこと何も関係はない としても
保育園で働く君に言ったら きっとひどく叱られると思う

付き合い始めてすぐのころ
ふたりで馬鹿なけんかして
仲直りのしるしに君が くれたオルゴール
曲は "It's a small world"

あのとき君を怒らせたのは
たちの悪い冗談
ある日悪魔が現れて
僕たちに取り引きを持ちかける

「恋人を殺せば 世界が救われる」
としたら
僕らは何ができるんだろう
ふたり 出逢わない人たちのために


何があったのかは 訊いたりしなかったけれども
あんなにやり切れない目を していたのは今日が初めてで
いつもよりも遅く 僕の部屋へたどり着いた君は
まるで交通事故で 僕の兄が逝ったときの母のように見えた

黙っている君のとなりで
僕は煙草に火をつけて
ねじを巻いて蓋を開けたね
それで壊れて聴けない "It's a small world"

あのとき慌てふためく僕に
やっと君が笑って
ふたりのために安物の
指輪を買うことに決めたんだ

恋人の見ている
世界にいま寄り添うことで
僕にも何かできるだろうか
僕が出逢わない人たちのために